病診連携

大阪北逓信病院

外科肛門科 佐々木宏和


肛門科ならではの検査、診断、治療 (2014.3.26)

 肛門診察は問診、視触診、肛門指診、肛門鏡診が基本的な流れです。問診でおおまかに病名を絞り、視触診・肛門指診でさらに病名を絞り、これらにより得られた情報を肛門鏡診で確認します。肛門鏡は大きく二枚貝式と筒型に分類されます。二枚貝式は肛門管走行の縦方向に連続して視診が可能です。筒型は同一円周を視診できます。当科では外来診察は筒型を基本にし、適宜二枚貝式を使用しています。

 従来の肛門鏡診は病変を医師しか見ることができないという大きな欠点がありました。当科ではデジタルアノスコープ(図1)という機器を用いて肛門鏡で見える画像をデジタルでパソコン画面やテレビモニターで見ることができます。デジタルアノスコープにより、医師にとっては@肛門鏡診察時の無理な姿勢から解放される、A拡大視可能で小さな病変も発見できる、B画像データ(静止画、動画)をパソコンに保存できるといった長所があり、患者にとっては@モニターで自分の目で確認できる、A治療経過及び効果を確認できるといった長所があります。

 肛門科ならではの診断法として怒責診というものがあります。ベッド上でいきんでいただき痔核、肛門ポリープ、直腸脱、直腸粘膜脱などの脱出性病変の程度、有無を確認する診断法です。怒責診を行うと便が出そうになる為、ベッド上でいきむことが困難な時が多く、トイレへ移動していただき排便する姿勢でいきんでいただくことになります。移動などで時間がかかり、診察時間のロスが短所でした。そこで吸角(図2)という特殊な器具を用いて短時間で確実な診断を行っております。

 吸角はガラス製などの透明な器を肛門に当て陰圧にすることで肛門管内に潜んでいた痔核などを脱出させる器具で、出血部位を確認することにも利用できます。ベッド上で診察の流れを妨げずに行うことができる長所があります。吸角は治療法としても古い歴史があります。患部にガラスやプラスチックの器を当て陰圧にすることで血液の循環を促し、筋肉の緊張を取ることにより肩・腰背部の筋肉疲労、肩こり、腰痛の治療に用いられています。昔は中が空洞の動物の角を吸い付かせて行っていたので“吸角”と呼ばれるようになりました。

 痔核による脱肛、出血症例に対して保存的治療で効果が乏しい時、以前は切除術が主流でした。しかし最近は切らないで治す硬化療法(ジオン注:硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射液(ALTA))を選択する機会が増加しています。ジオン注は「四段階注射法」という高度な投与技術が必要なので日本大腸肛門病学会に所属し、使用に際して「肛門領域に精通した医師」で、なおかつ注射手技講習会の受講が義務づけられています。@痔核上極部粘膜下層、A痔核中央部粘膜下層、B痔核中央部粘膜固有層、C痔核下極部粘膜下層の四段階に分けて注射を行う方法です(図3)。当院では現在御高齢の方や出血のリスクの高い方を除き日帰りで行っております。

 基本的診察の問診、視触診、指診、肛門指診を大事にし、さらにデジタルアノスコープ、吸角を活用し迅速、的確な診断、治療を目指しています。

※ 詳細な内容は以下をご参照ください。
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図1.デジタルアノスコープ

図1.デジタルアノスコープ


図2.吸角

図2.吸角


図3.四段階注射法(製品情報概要)

図3.四段階注射法(製品情報概要)