病診連携

加納総合病院

脳卒中センター長 中澤 和智


最近の脳卒中の話題(2016.11.30)

【はじめに】
 脳卒中急性期治療は数年間で大きな変革期を迎えています。特に最近は脳梗塞の血栓回収療法が注目されています。最近の話題について要旨をのべさせていただきます。

【講演要旨】
 脳梗塞急性期治療は2005年にrt-PA静注療法が保険収載され、再開通を積極的にさせる時代になりました。しかしながら、投与可能な時間が最終未発症確認時刻から短時間であり、適応条件が限られるため,脳梗塞患者のわずか5〜10%の患者にしか投与できませんでした。また、投与できたとしても内頚動脈などの太い血管閉塞には再開通率が低いなどの問題点も確認されています。
 一方2007年のらせん型血栓回収デバイス(Merci)認可後に吸引型(ペナンブラ)やステント型(ソリティア、トレボ、リバイブ)など再開通率と安全性の高い新たな血栓回収デバイスが使用できるようになっています(図1)

 デバイスだけでなく2015年には、MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT-PRIME、REVASCATなど複数の臨床試験で血栓回収療法の有用性が科学的に証明されました。
 それをふまえて、2015年に米国心臓協会/米国脳卒中協会のガイドラインは改訂され、以下の条件を満たす場合は「血管内治療が推奨されるべき(Class I :エビデンスレベルA)」と述べられています(図2)

  ● 発症前のADLがほぼ自立している
  ● t-PA療法を4.5時間以内に受けた
  ● 内頸動脈・近位中大脳動脈閉塞
  ●18歳以上
  ● NIHSSが6点以上(中等症以上の症状)
  ● ASPECT6点以下(まだ脳梗塞が広範囲でない)
  ● 血管内治療が発症6時間以内に可能

 脳梗塞急性期治療の最大の目的は自立した生活に戻すことですが、自立した生活に戻すには、@良好な再開通と、A再開通までの時間が短いという2つの条件が重要な要素となってきます(図3)
 欧米8学会の急性期脳梗塞に対する血管内治療のガイドラインでも目標とする時間が示されており、来院から画像診断が25分以内、来院から治療開始が120分以内、治療開始から再開通が90分以内を推奨しています。

 また、機能回復には急性期から回復期までの充分なリハビリテーションも不可欠です。特に急性期から回復期まで毎日の8〜9単位のリハビリテーションを追加することで、より積極的な神経機能の回復に取り組んでいます(図4)

 つまり、脳梗塞急性期治療は、@再開通治療を念頭にした、A治療技術の高いチームで、B素早く対応し、C強力なリハビリテーションを追加する施設での治療が望ましい疾患であると考えられます。

 しかしながら、積極的な治療をしても後遺症を抱える患者さんも多く、安定期に入っても生活機能の維持・向上のためには、介護保険や身体障害申請などの社会的支援や、かかりつけ医との連携などが円滑に行われる必要があり、病診連携は不可欠と考えています(図5)

※ 詳細な内容は以下をご参照ください。
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図1.日本国内の再開通治療の歴史

図1.日本国内の再開通治療の歴史


図2.米国心臓協会/米国脳卒中協会のガイドラインにおける「血管内治療が推奨される条件」

図2.米国心臓協会/米国脳卒中協会の
ガイドラインにおける
「血管内治療が推奨される条件」


図3.自立した生活を得るためには?

図3.自立した生活を得るためには?


図4.麻痺の回復:リハビリテーションによる違い

図4.麻痺の回復:リハビリテーションによる違い


図5.治療とリハビリテーションの流れ

図5.治療とリハビリテーションの流れ